静岡の大工の家に生まれて
静岡で大工の家の四代目として生まれました。小さい頃からものづくりが好きで、高校を出たら大工になろうと、工業高校の建築科を卒業してすぐに親父に弟子入り。三年間は週一回、訓練校に通いながら、大工として仕事をはじめました。
もともと凝り性でしたから、若いころからノミカンナ、鋸などの道具を集めたり研いだりするのは好きでした。その上、負けん気も強かったので、訓練校の技能コンテストではいつも二位。どうしてもかなわかなった一位というのが、あとでうちの妻になる人でした。
デザイン性の高い
無垢材あらわしの家を造りたい!
親父は、手刻みで組み上げる仕口の強度などを信頼していたので、世間の流れがプレカットに向かおうとも、手刻みにはこだわり続けていました。ちゃんとした工場があり、加工機械が揃っていたことも、よかったのかもしれません。しかし、親父が造る家は、デザイン的には、間取り的にも茶の間と続き間の和室、2階に個室がいくつ、という民家というよりは普通の「昭和の家」でしたね。木をきっちり使ってはいても、積極的に見せているわけではありませんでした。
自分が一棟丸ごと任されるようになったら、デザイン面でも勝負できる木の家をつくりたい。そう思い、訓練校に通う傍ら、静岡建築士会の主催で設計士が集まって構造や意匠を勉強する連続講座「しずおか木造塾」でも学びました。無垢の木を吹き抜けであらわしにしたリビングなど、木をかっこよく、センスよく見せるやり方に触れ「こういう家を造りたい!」と、意欲が湧きましたね。
自分なりの家作りを初めて手がけたのは、大工になって5年目の23の時でした。地域材のはつった梁をがっつり見せたり、玄関に蔵戸を使ったり、木のお風呂を作ったり、それまでやりたいと思っていたことを、かなりやらせていただきました。
「小さな削ろう会」の運営と
大工の妻との結婚
もう一つ、大きく影響を受けたのが、訓練校時代から出入りしていた「削ろう会」の縁で知り合った山梨の雨宮大工です。手道具だけで山の木を伐って製材するところから家づくりを手がける彼のところで、丸太をチョウナではつる、大鋸で木を曳くなど、手道具製材を学ばせてもらいました。二年かけて通い、2010年はに「小さな削ろう会」を企画、運営。ドイツからも大工職人が参加してくれて、のちに「はつろう会」にも繋がる流れのスタートに居合わせるという貴重な体験となりました。
その年に、訓練校からのライバルで「小さな削ろう会」も一緒に企画した妻と結婚。妊娠して現場に出ることができない期間に一級建築士を取得するというほどのスーパーな人を家族に迎え、無垢の木でやれることを、どんどん手がけていけるようになりました。子供も二人になり、親父、おじ、弟、妻という大家族で、木の家づくりに励みました。
静岡から金沢に移住
苦しい中での再スタート
家族の事情で2017年の正月から、金沢にほど近い石川県津幡町の妻の実家に移住し、地盤のない土地での再スタートを切ることとなりました。
作業場もない状態でいきなり自営はできず、鉄骨造のマンションの現場監督の主任代理をしたりしながら、しのぎました。程なく、静岡時代から木の風呂に使っていた「液体ガラス」のメーカーから、金沢市街を一望する卯辰山公園の施設の外壁塗装を依頼されました。その仕事を終えた売上でハイエースを買い、妻の実家の古民家の一角に作業場を作り、道具を買い揃え・・社寺建築の会社である期間働いたりしながら、2018年からどうにか工務店再開への一歩を探り始めました。
程なく、静岡時代から木の風呂に使っていた「液体ガラス」のメーカーから、金沢市街を一望する卯辰山公園の施設の外壁塗装を依頼されました。その塗装業の仕事を終えた売上でハイエースを買い、妻の実家の古民家の一角に作業場を作り、道具を買い揃え・・社寺建築の会社である期間働いたりしながら、2018年からどうにか工務店再開への一歩を探り始めました。
伝建KRAFTとしての初仕事は
金沢の町家改修工事
心機一転、屋号を「伝建KRAFT」とあらためての初仕事は、金沢の東山の伝建地区にほど近い町家の改修工事です。戦前の大工棟梁が、自分の隠居家として建てた、金沢独特の朱塗りの床の間もある素晴らしい町家です。戦後の風呂や台所など水回りの改修でかえって傷んだり腐ったりした部分もあり、それを元の健全な姿に戻しつつ、暗い色の土壁だったところに漆喰塗りを施して明るくしたり、かなり手を入れました。
金沢での初仕事として、先人のこのような仕事の跡に触れることができ、また、後からの工事で覆われていた構造を再びあらわすお手伝いができて、幸運でした。
職方や大工仲間との連携、施主との縁など、地盤がまだできていない難しさはありますが、今後も、せっかく自分の持っている伝統的な大工技術を生かして、町家の改修をはじめ、金沢での仕事を手がけていきたいと思います。